イタリア自動車雑貨店
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 イタリアが好きだ。イタリアに行きたい。そんな想いがふくらんで、いつしかそこでの暮らしを夢みるようになっていった……。待っていたものはなんだったのか。当店スタッフ山崎基晋は、京都での生活をリセットして、憧れの国イタリアへ飛んだ……。

第11回 「ディエゴという男」



  プログラマーのディエゴ

 2000年の10月から2001年の12月までの、およそ1年ちょっとのイタリアでの暮らしの中で、ディエゴと知り合った。最初はなんとなくとっつきにくい感じで、どちらかというと苦手なタイプだった。イタリア人の中にポツンといる異邦人の僕を、どこか見下げたように、いつも右の眉を少し上げてこっちを見る。肩まで伸びた金髪、大げさな耳ピアス。口元を歪め、いつも不機嫌そう。表情は暗く、麻薬にとりつかれたジャンキーのようだ。まず、知り合いでなければ近づけない雰囲気をもっている。職業はコンピューターのプログラマーで、パソコンや電子機器にはめっぽう詳しく、何よりも最先端技術に興味を持っている。

 ディエゴのアパートは、賃貸ではなく彼がローンを組んで手に入れたものだった。広さは約70屐リビング、寝室、キッチン、シャワールームにいたるまで、どこも整理整頓され手入れが行き届いていた。食器洗い乾燥機だって持っていて、最新機種のデスクトップパソコンで仕事をこなしていた。インターネットは最新のADSLで接続し、どの部屋にいてもノートパソコンで接続できる無線LANの設備も備えていた。その頃僕が住んでいた44屬離ンボロで小汚いアパートとは大違いだ。

  彼のアパートの広いリビングには、大画面のテレビがあり、イタリア人憧れの最新機種(2000年当時)ソニーのプレイステーション・ドゥーエ(2)を持っているということで、同年代の友達と彼の部屋に遊びに行くことが何度かあった。平均所得が日本より低く、更に日本製の電気製品はイタリアではとても高価なのだ。ソニーの最新機種を持つことはイタリア人にとってステイタスのようだった。

  ディエゴはプログラマーの仕事をバンバンこなして、イタリア人憧れのアウディA4を乗りまわしている。25歳の若さでアパートの一角を所有し、月収は450万リラ(2001年当時、約27万円)とイタリア人の平均所得よりもはるかに多い。彼の幼馴染や同年代のイタリア人の友人がいつも羨ましがっていた。でもそんなことより、ジャンキーな容姿ながら、最先端技術オタクで、アパートの中が隅々まで整理整頓されているという奇妙な二面性が面白かった。

  苦手だった彼との距離が縮まったと感じたのは、知り合ってから半年ぐらいたった頃だった。エアコンのないオンボロ部屋の夏はさすがに辛いと感じたので、授業のない8月は日本で過ごすことにした。そうして3週間ばかり日本にいてのんびりしていた。夏の終わり、再びミラノに戻る数日前、イタリア人の友達へのお土産を探しに行った。フラっと立寄ったディスカウントショップのショーケースの隅にデジカメ付リストウォッチがあった。すぐにディエゴの顔が思い浮かんだ。

 これを見たらきっと仰天するはずだ。早く渡したくて、ウズウズしていた。


一時帰国、そして憧れの仕事を手にする

 思ったとおり、ディエゴは大喜びだった。いつも不機嫌そうな顔をしているのに、このときばかりは、SPERANZA!(スペランツァ=望み、希望)と何度も叫び、はしゃいでいた。それから、頻繁に連絡を取り合うようになった、というような急激な変化はなかったが、いつものように、同年代のイタリア人が集まる週末、ディエゴは僕を見かけると声をかけてきて、短い会話をするようになった。彼の左腕にはいつもCASIOのデジカメ付リストウォッチがあった。

  1年ちょっとの間に、こんなふうにして友達ができていった。それはイタリアに自分が来る前に想像していたことの一部には違いなかったけど、決して全部ではなかった。だから、なんとなく燃えきれないくすぶりのような思いがいつも胸にあった。

  2001年12月、帰ろう、と決断した。日本へ帰ろう。イタリアに来てしまえば何とかなるという思いでミラノでの語学留学をスタートさせ、時が経ち、生活に慣れ言葉も理解できるようになった。でも、明確な目的がないというもやもやとした日々は変わらない。それなりに楽しいこともあるし、友達も出来たけれど、仕事を持たずイタリア人社会の中で浮いた存在である自分が、なんだか無性に嫌だった。

  日本に戻ってきてからの暮らしは快適だった。制約のある生活から解放されて、自由を再び手に入れたような気がした。定職につかず、アルバイトをしながら、好きなことをして過ごした。イタリアでの生活の記憶はどんどん薄れ、あっという間に月日が流れた。

  気ままな暮らしから半年が過ぎたある日、何気なしにホームページを検索していて興味を引くページにたどり着いた。イタリアのクラシックカーレース、“Mille Miglia”に出場歴のあるフェラーリやアルファロメオ、ランチアのワークス・ラリーカーがズラッと紹介されている。いわゆるスペシャルショップで、高価でなおかつ珍しい車両ばかりを取り扱っていた。

  イタリア駐在員が現地で車両の詳細情報を取得し、日本にあるそのショップと常にコンタクトをとっているらしかった。どんな風にやっているのだろう。勇気を出して、このショップのオーナーに連絡をとってみた。

  1週間後、僕はそのショップのオーナーの前に座っていた。イタリアでクルマを探せるか、と訊かれた。ミラノで生活していたこと、イタリアの自動車の整備の経験もあること。給料なんて実際の働きぶりをみて、決めてくれればいい、と自分を売り込んだ。大好きなイタリアとイタリアのクルマがダイレクトに繋がる仕事だった。これこそが自分の求めていたもののように思えて、僕は必死に自分を売り込んでいた。

  こうして2002年10月、再びミラノに戻ってきた。一度は諦めかけていた、憧れの仕事を手にして有頂天だった。やるべきことがここにある。しかも、大好きな、憧れのクラシックカーに関われるという喜びは、何ものにも代えがたかった。

  ディエゴが同居人を探してる。そんな噂を耳にして、僕は早速彼に連絡を取ってみた。あっけないほどあっさりと、彼はオーケーと言った。新たなスタートだった。全ての運が自分に向かってきているような気がした。



                  ディエゴとの生活が始まった

 朝の9時、シャワーを浴びるためにバスルームのドアを開けてギョッとした。いつも着替えを置く洗濯機の上に女性用の下着が散乱している。シャワー室には、天井に洗濯物を干すための吊り下げ式ハンガーがあり、そこにもビッシリと下着がぶら下がっていた。昨日の夕食後、ディエゴと話したとき、特に変わった様子はなかった。いったい一晩のうちに何があったのだろう。

  このアパートの部屋に入居したのは3週間前。イタリア人ディエゴとの同居生活が始まってから、彼が女の子を連れてきたことは一度もなかったし、色気のある話も聞いたことがなかった。いつもと違う部屋の様子に戸惑いながらも、シャワーを浴びて部屋に戻った。バスルームを挟む隣の部屋がディエゴの部屋。いつも昼過ぎまで出てこない。その朝もいつもと同じように、彼の部屋からも、アパートの中のどこからも物音ひとつ聞こえてこなかった。

  しばらくパソコンの前に向かい集中していた。1時間ぐらい経ったのだろうか、気がつくとリビングで楽しそうな話し声が聞こえる。すぐに、シャワールームでのことを思いだした。ディエゴと楽しそうにエスプレッソ飲んでいたのは、随分前にディエゴと別れたはずのエレナだった。あの散乱した下着とたくさんの洗濯物は彼女のものだったのだ。彼女は去年、大学を休学しスペインでウミガメを保護するボランティア活動をしていたらしい。別れたはずのエレナとディエゴは、とても仲がよさそうだった。

  ところが、夕方、出かけていたディエゴがシルヴィアという名の女の子を連れて戻ってきた。スタイルの良い綺麗な女の子だ。当時学生のあいだで流行していたINVICTAとプリントされたリュックサックを背負っていた。しばらくすると、二人は一緒に食事を始めた。朝、ディエゴがエレナと楽しそうに過ごしていたリビングでだ。その後、ディエゴはギターを弾き、シルビアと一緒に音程の外れた歌を大声で歌い騒いだ。疲れると彼らは一緒に部屋に入っていった。

  朝のエレナの気配はもうどこにもなかった。あんなに散らかっていたバスルームはきちんと整頓され、ぶら下がっていた洗濯物は跡形もない。エスプレッソカップも、読みかけの雑誌も、きれいさっぱりと消えている。いったい、いつの間に証拠隠滅したのだろう。この日から、きっちりと時間を区切られたようにシルビアとエレナは交互にこのアパートに来た。不思議なことにディエゴが掃除をしたり、あわてて何かをする姿を一度も見たことがなかった。

  悪態をつき、人を寄せ付けない雰囲気は以前と同じだが、生き物を殺すのは耐えられないと言って、最近、急にベジタリアンになったディエゴ。部屋に入ってきた蚊を殺すな、と言うほど徹底している。タバコも吸わなくなったし、酒も全く飲まなくなった。妙に真面目になって面白くないと思っていたけれど、やっぱり根は不良なのだ。いったい本命はどっちなの、と訊くと、鼻先でちょっと笑って、シルビアと答えるのだった。平然としていて、何事にも慌てた素振りを見せないディエゴが、ちょっとカッコよく思えた。


(つづく)




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