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第2回 TORINO TORINOを歩く

イタリアの自動車産業を象徴する都市、といえばここトリノが代表的な存在です。
みなさんご存知のように、ランボルギーニを除いて、現行イタリアンブランドのクルマはすべて、トリノに本拠を置く巨人フィアットの傘下に入っています。
さらに、ピニンファリーナ、ベルトーネ、そしてかつてのミケロッティ、そしてその他あまたのカロッツェリアも、そのほとんどが この地で生まれました。
トリノこそがイタリアの自動車の聖地なのです。
ではトリノが煙っぽい街かというと、実際はまったくその逆です。
整然とした街並みにはしっとりとした趣があり、バロック様式の建築物が立ち並ぶ旧市街はそれ全体が歴史博物館のようです。
今回は、イタリア車エンスージアストのために、聖地トリノとはどういうところか、そんなお話をしてみたいと思います。

自動車の匂いは意外にも希薄
日本からトリノへはどういう経路で入っていくのがいいのか。
代表的なのはミラノまで直行便で飛び、そこから列車で移動するというパターンでしょう。
ミラノ→トリノ(トリノ・ポルタヌォーヴァ駅)は約1時間45分。
1等を使って往復7万5千リラ(約4500円)、一般的な2等なら往復で3000円以内です。
日本からトリノに直接入りたい場合は、欧州系の航空会社を使って、フランクフルト、パリ、アムステルダム等へ、そこからトランジットでダイレクトにトリノ空港へ、という手があります。
トランジットでトリノ行きの飛行機に搭乗すると、おそらく日本人はあなた一人きり、ツアーの日本人観光客の姿もなく、ちょっぴり心細くなるかもしれません。
ということで、さあ、いよいよトリノです。
イタリアにしては珍しく道路が碁盤の目のように交差するトリノは、とても歩きやすい街です。
歩きやすいというのは、つまり分かりやすいということ。
地図さえあれば、行きたいところにはほぼ間違いなく辿り着くことができます。
ですから、トリノについたらまず最初にすることは書店で市内マップを買うこと。
日本で知名度の低いトリノは、日本の書店でその市内マップを手に入れようとしてもまず不可能ですから、ここは現地調達。
だいたい1万リラ(600円)以内で、ちいさな通りの名前もすべて網羅された詳細な地図を手に入れることが出来ます。
日本で下調べをしていった場合、LANCIAのあるヴィンツェンツォ・ランチア通り、ABARTHのあったコルソ・マルケ(マルケ大通り)、FIATのミラフィオーリ等の名を、地図に探すことでしょう。
「行ってみる」、ということ、あるいは「行った」ということはとても意味のあることなので是非お勧めしますが、拍子抜けするほどに何もありません。
かつてのLANCIAやABARTHの栄華を、目を閉じて思い起こす、しかもその生誕の地で、というセンチメンタル・ジャーニーになること請け合いです。でもそれはそれでとってもいい。
あなたの立っているその場所は、かつてランチア・ストラトスが、ホイールスピンも勇ましく走り抜けていった道なのです。
ただそれだけのことですが、ただそれだけのことのために極東の地からはるばるそこに行った、ということを自分の人生にひとつ加えることは、すばらしいことだと僕には思えます。
余談になりますが、おととしフェラーラの近くにあるランボルギーニのミュージアムに行ったときもそうでした。期待していったのに素っ気無いほどに質素で、きらびやかさのかけらもない。
でも1時間そこにいて、自分の足音だけが響くような静寂さが支配する館内で僕が感じたこと--―、それはランボルギーニの「孤高」でした。
肌で感じたそれは、そこに行くことによって初めて自分のものになった感覚で、しかもほかの誰から教えられたわけでもない僕自身のランボルギーニにほかならないものです。
自分の足で歩いていく、ということは、そういうことだと思います。

トリノは確かに自動車とともに語られる街ですが、前述したように直接的にその空気を感じることはまれです。
パーツショップやアクセサリーショップなんて いうものは、日本人が期待する水準からいうとないに等しい。
1日足を棒のようにして歩き回っても、実利的 なお土産(期待していたパーツ等)なんて見つからない可能性が高い。
でも、この街を何度か訪れて、この街の人々の口からヴニャーレ、アレマーノ、チシタリアなんていう言葉がなんの気取りもなく出てくるのに接すると、やっぱりここはまぎれもなく自動車の街なんだ、と思います。
そういう目に見えない何かが流れているのを発見すること、トリノを訪れることの意味は、イタリアの自動車文化の奥深さに触れることにあるのかもしれません。

エスプレッソあれこれ
ということで、ちょっとクルマから 離れてトリノを歩いてみましょう。
ポルタヌォーヴァの駅を出ると、目の前を東西に延びる大きな通りがあります。
これがヴィットリオ・エマヌエレ2世通り(CORSO VITTORIO EMANUELE2)で、トリノの町を南北に二分しています。賑やかなのはこの通りの北側、つまり駅から通りを挟んだ向かい側にあるカルロ・フェリーチェ広場(PIAZZA CARLO FELICE)から始まるローマ通り(VIA ROMA)が、トリノ随一の目抜き通りになります。
ローマ通りにはお馴染みのイタリアンブランドのお店も多く、ミラノで日本人観光客にもまれて買い物をするよりは、ずっと落ち着いて品物を見ることができます。
ただし、店員はほとんどの場合英語を話しませんので、初歩的なイタリア語を覚えていくことが必要です。品物の値段ははミラノに比べて10%はお得!イタリアのブランド品が大好き、という方のために付け加えると、プラダ製品を安く売っているお店(目立たないけど)もあります。まあ、そんなものに興味がなくても、ただ歩いているだけで楽しいです。
それぞれのお店のディスプレイがとてもきれいだから。

さて、カルロ・フェリーチェ広場からローマ通りを5〜6分歩いていくと、ZUCCAという大きなバール(BAR)があります。
エスプレッソはもちろん軽いランチとしてここのサンドイッチはとても美味です。
お店そのものも歴史があり、ちょっと敷居が高いかもしれませんが、一流のバールです。
バールといえばもうひとつ。そのまま4〜5分歩くと大きな広場に突き当たります。
これがサンカルロ広場(PIAZZA SAN CARLO)。
この広場(とても広大!)の右側に「CAFETERIA」という表記しかないバールがあります。
でも本当の名前 はヌォーヴ・カバル・ドゥ・ブロンス(NUOV CAVAL D'BRONS)。
広場の中央にあるエマヌエレ・フィリベルトがまたがる馬の像にちなんだ覚えにくい名前で、その綴りは現在のイタリア語とも少し違うのですが、詳しいところは失念しました。

ところで、僕の知る限りここのエスプレッソに勝るそれを経験したことはいまだにありません。
とにかくまろやかで、口当たりが良くて、エスプレッソってこういうものだったのか、と認識を新たにするような感動があります。
本当においしいエスプレッソを経験すると、不味いエスプレッソというものがよく分かるようになります。
イタリアに行き始めた当初は、イタリアのエスプレッソはどれもおいしい、と頭から信じ込んでいましたが、実際は違っていました。
ほんとにひどいものを飲ませるバールやリストランテもあります。
バリスタ(バールで珈琲を淹れているいる人)がダラダラやっているようなところは、まず間違いなく不味い。誇り高いバリスタは手さばきそのものもとても美しいのです。
バールはイタリアの人々の生活に密接に結びついていますから、イタリアやイタリア人を知るという意味でも貴重な場所です。
いろいろな人がひっきりなしに入ってきますから、その人たちの様子を見ているだけでも、いくつかの発見があることでしょう。

仕事を持っている人で、1日平均2回はバールに立ち寄るといいます。
でも、決して長居はしない。基本的に立ち飲みですから、せいぜい2〜3分。
さっと入ってきて二言三言、さっと飲んで、さっと出る。
コーヒー一杯で30分も1時間もその場に居続けるなんてことは、
まずありえないことなのです。
カフェ、と注文すればエスプレッソが出てきます。
トリノでは大体1,500リラ(約90円)が相場。
その他にも、お馴染みのカプチーノ、そしてカフェマキアート(マキアートはしみ、という意味。エスプレッソの上にミルクがしみのように浮いています)、モロッコ人の肌の色に似たカフェマロッキーニ等々、いろいろなコーヒーをバールでは楽しむことが出来ます。
僕は冬の雨の日にここ『ヌォーヴ・カバル・ドゥ・ブロンス』で飲むエスプレッソが特に好きです。理由は良くわかりません。
バールの中から見える雨に煙るサンカルロ広場は、そこにアルファ・スパイダーなんかが停まっていると、ゾクッとするほど素敵です。

次回はトリノ最終回。お奨めのホテル、リストランテ、そしてクルマ好きのためのイベントの情報など、最新のニュースをお知らせします。




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