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速さとジャリと妄想と
自動車の持つ特性のひとつ「速さ」についてすこしだけ考えていて、アルフレッド・ジャリのことを思い出した。ジャリは19世紀末から20世紀の初頭にフランスで活躍した作家、詩人だ。彼は酒とピストルと自転車を偏愛し、34歳という若さでこの世を去ってしまった。そして、そのときには彼の自転車の支払いのローン(借金?)を多額に残したままだったという話が深く印象に残っている。
そこまでして自転車が欲しかった理由は何だったのだろうか? 勝手な妄想だが、きっと「速さ」が欲しかったのではないのかな、と思う。一瞬にして走り去るように、あの世へ行ってしまったジャリを思うとそう考えずにはいられない。
わたしは足が遅い。子供のころからかけっこでは大体ビリかビリから二番目。マラソンをしても大体最後のほうのグループ。なんとか努力して真ん中くらいが精一杯。友達と遊んでいても、いつも後ろから追いかけているばかりだった。でも、自転車は違った。わたしにだって、一番になれるチャンスがいつもあって、軽快に風をきって走っているときはとても心地よかったことを覚えている。
想像だけど、もしかしたらジャリもかつてわたしと同じように、心地よい風を感じたことがあるのかもしれない。まぁ、そうこじつけるのは非常に難しいと思えるほど、ジャリの頭の中はわたしのそれより、ずっと難解で複雑だったのだろうが。でも、心地よい風を体に感じて、速さというものに魅せられ、不器用に自転車への思いを募らせていたのだとしたら? ちょっとロマンティックで愛しい人のように思える。
そして、またもしも、ジャリがいま生きているとしたなら、どんな風に自動車に魅せられているのだろうか? エンジンだのボディーのラインがどうのと、どんな自動車愛好家も寄せ付けない難解な言葉でやっかいな自動車評論家になっているのかもしれない。そしてまた、身の丈にあわない高額のスーパーカーの借金返済に追われているのかもしれない。
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13:06 by ぴろり |
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