イタリア自動車雑貨店
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2006

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2006年09月27日
ずっと夢をみる

(前回から続く。長文です)
で、クリーニング屋から戻った僕は、日本から送った豚汁と赤飯という目茶苦茶な組み合わせの昼食を、満足感に浸りきって済ませたわけです。レストランは言うに及ばずピッツェリアにさえ滅多に行きません。なぜなら、高いから。日本なら昼食を4、5百円でも済ますことだって可能ですが、現在イタリアにおいて3ユーロでお昼なんていうと、パンくらいしかありません。外食はリラ時代に比べると、こちらの物価レベルでほぼ倍!になってしまいました。それにユーロの高騰が外国人である僕に重くのしかかっています。

イタリアの麗らかな土曜の午後、部屋に豚汁の香りが漂い、食後の日本茶も最高でした。と、その時、食器棚の横に掛けてある蚤の市のカレンダーに目が行きました。きょうの日付、9月23日土曜日の欄に何やらイベントの文字が見えます。近くに寄ってみると、ピアチェンツァでその日と翌日の日曜日に自動車関連の蚤の市が開催されているではないですか。う〜ん、これは行くしかないだろう。1時30分に出れば3時半には着くのです。僕は豚汁のどんぶりと御飯茶碗を流しに置いて水に浸すと、早速クルマのキーを手に出かけて行きました。

アウトストラーダは土曜日ということもあって交通量が少なく、ほぼ140km/h平均の巡航速度で走っていけます。制限速度が基本的には130km/hなのですが、まあ、140km/hくらいまでが安全圏でしょう。もちろんそれ以上、明らかに200km/hは出てるクルマもいますが、カメラが睨みを効かせてますから、あとが怖いです。一度やられてます。155ユーロもイタリアの国庫金に贈呈しました。

油断していると、イタリア、やる時はやるのです。くわえタバコのALFA 156スポーツワゴンのパトカーも神出鬼没で現れます。余談ですが、200km/hにならんとする速度で他のクルマを蹴散らすように走っていくのは、ほぼ例外なくメルセデス、BMW、アウディのドイツ車です。みんなターボ・ディーゼル。そして、それに食い下がっているイタリア車は、ほぼ例外なくアルファロメオです。が、負け戦です。古いウーノなんかでかいトラックに挟まれて、止まりそうになりながら走っています。健気で哀愁漂うアウトストラーダの風景です。

さて、ピアチェンツアに到着。会場のピアチェンツァ・フィエラがあまりにも立派なのでピックリ。と同時にイヤな予感に襲われました。会場の立派な蚤の市は概して内容が陳腐である、という経験則があるからです。でも、それを打ち消して、チケット売り場で入場料6ユーロを払ってゲートをくぐる。初めての場所ではこの瞬間期待に胸が高鳴ります。今まで見たこともないような掘り出し物に出会えるかも。ストラトスのオリジナルのハンドルなんてあったらどうしようか。いや、もしかしたらフロントのエンブレムだってあるかもしれない。なんて、いつだって夢みて会場に足を踏み入れるのです。11年間ずっとそんな夢をみてきました。

ところが!? 会場に1歩入った瞬間に僕の目を射ったのは、なんとナチスの旗!でした。それから何やら漂う汗臭い匂い。心なしか重い空気が沈殿しています。迷彩色のヘルメットもあります。あっ、マシンガンもある! イタリア空軍のパイロット服、エンブレムみたいに見えるアレは何だ? 勲章だッ。勲章売ってるのか、いいのか? なんて目を白黒させるとはまさにこういうことだろうの勢いで別世界に闖入していました。そうです、入り口を入ったところから展開されていたブースは全部、『各国戦争雑貨店』みたいなやつだったのです。○○将軍サイン入り水筒、なんてのがあるんでしょうか? 怖くて訊けません。完全武装したブースの人、立ち寄るお客さんに敬礼なんてしてるんですから。これは戦争、というか、軍事マニアですね、そういう人たちのためのブースです。

こりゃ間違えたにしては大間違いだ、と思って、もう一度会場の入り口に戻って、貼ってあるポスターを見てみると、いえ、いえ、確かに自動車関連の蚤の市とあります。日付も間違いなし。で、気を取り直して、足早に「戦場」をくぐり抜けていくと、ありました、ありました、奥の方に自動車関連書籍で名高いNADA社、LIBRERIA DELL’AUTOMOBILEの看板が見えます。やっぱり、いいんじゃん。あ〜あ、良かった。でも、あのミリタリーな世界、あれは一体何なんだ……。

さて、さて、NADAのブースから見ていきましたが、新刊もなく、顔見知りの店の人間も全然やる気がなさそうな雰囲気で、なんかこちらのテンションも下がってきます。だいたい、NADAのブースにお客さんが全然いないなんて、普通考えられません。落ち着いて会場全体を見渡してみると、確かに入場者がそんなにいないのです。やっぱりなぁ、経験則は生きてるのかぁ……。このとき僕はこれから先の展開が全部わかってしまいました。伊達に11年もこの種のイベントを荒らしてるわけじゃないのです。もうわかった! こりゃ正真正銘の大ハズレだッ!

酷かったです。いつか入場者が数名しかいないフィレンツェの近くのレッコという街の蚤の市にもやられましたが、その時以来の酷さです。だって、NADAの他に15、6業者ほど。そのほとんどがカビの生えたステアリングやレンズの割れてるライト、表紙のない書籍、破れたポスターなんていう、日本じゃお金払って処分するようなものばかり売ってるわけです。ミニカーなんて間違いなく、業者の子供が昔さんざん遊んでたやつですね、それ持って来て売ってる。大体許せないのは、何回も使ったようなフツーの折り畳みのカサなんてものまで並べてるんです、ビール飲みながら……。

結局、ストラトスのステアリングにもエンブレムにも出会えませんでした。僕の仕事は漁みたいなもんなんですね。大漁の時だってある。魚屋の売れ残りで、猫でさえ見向きもしないものの前で立ち尽くすこともある。9月23日土曜日は靴先で地面を蹴っ飛ばしながら帰りのクルマに向かいました。それでもやっぱり今度こそはと夢をみる。次こそストラトスのエンブレムに出会えるんじゃないかと夢をみます。で、その夢を次に繋げて、10月の7日の土曜日、今度はちょっと遠いのでトリノから飛行機で行ってきます。初めていく場所です。胸が高鳴ります。いいことがあるといいなぁって祈ります。

それにしてもね、あの戦争展覧会みたいなやつ、あれは一体何だったのでしょうか。謎です。
 
11:45 by サンサロ


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