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14枚のエンブレム
僕らの仕事はイタリアのクルマにまつわる品物を輸入して、それを販売することである。いいものが見つかれば嬉しいし、それをたくさん買っていただければもっと嬉しい。でも、時に、売れていってしまうことにちょっと複雑な気持を覚えることもある。たとえば、今月のNOVITAに登場したLANCIA TEHMA 8.32初期型、そのリアのプレート。
僕はこれをもう何年も探していた。イタリアの自動車部品市に行けば、目は必ずあの印象的なイエローとブルーを追った。しかしある時を境に忽然と姿を消してしまった8.32のリアプレートは、もうほとんど「幻の」という形容詞を付けてもいいほどのレア・アイテムになってしまった。LANCIAの部品リストにはもちろんのこと、当時LANCIAにそれを納めていたところにも、もちろんなかった。
それが今年、2006年11月、いろんな偶然といろんな人の厚意が重なって、とうとう14枚もの8.32のリアプレートを手にすることができた。そうだよ、長い間これに会いたかったんだよ、と思わず声に漏れそうなほどに嬉しかった。手前味噌になるけれど、とうとうやったな、イタリア自動車雑貨店、と僕はこの店をたくさん褒めてやった。そんな思いを込めて、東京に向けて送る。次の更新の華はこれだな。そう考えるだけでワクワクした。
そして更新日のアップ。売れ行きが気になってここトリノから残りの在庫数をチェックしていた。日に日に残数が減っていく。そして今日、これを書く前にチェックしたときにはとうとう残り「1」になっていた。その「1」という数字をじっと見た。1か、と思ってずっと見た。もうあと一つしかないのかぁ……、と思う。長い間探しに探していたものが、それも14枚も手に入れたのに、たったの5日ほどでもうゼロになろうとしている。それは確かに喜ぶべきことなのだけど、娘を嫁がせる父親の気持のようなものなのか、ちょっと、いや、とっても寂しい。
でも、いいことだってあった。あるお客様からのメール。そこには「ずっと探していました。必ずお店に行きますので、取っておいてください」と文字が躍っていた。このメールを繰り返し読んだ。探しあぐねていたものに行き当たったよろこびが行間から溢れていた。14回読む。14回読んで自分の胸にその言葉を焼き付けて、それで良しとしよう、そう思った。イタリア自動車雑貨店という店名を掲げて、好きでこの仕事を始めた僕らにとって、おそらくこれ以上の言葉はないはずなのだ。
最後にひとつ。売ってしまっていてこんなことを言うのもなんだし、そんな資格もないことは重々承知の上だけど、願わくばどの1枚も、ヤフオクなんかで法外な値段を付けられて再登場することのないよう、それを心から祈っている。
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12:10 by サンサロ |
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