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一冊の本と一台のクルマ、広がるイタ車の世界
ある日の午後、バックルームで事務仕事をしていると、アルバイトスタッフがやってきてわたしに訊ねた。『LANCIA APPIA ZAGATO』っていう書籍ってありますか? パッと頭のなかにあの薄茶色の表紙が浮かんで、あるある! あるよ!! と、そう言った。わたしの記憶どおりその本は本棚にあって、それをお客様は熱心にご覧になっていた。
あれ? よーく見ると、知っている方だった。「こんにちは」の声をはじめに少しずつお話をしていった。いつも明るく上品な笑顔のそのお客様は、きょうはいつにも増して笑顔が大きくちょっと高揚しているように見えた。それもそのはず、なんと『LANCIA APPIA ZAGATO』そのものを買ってしまったというのだ。
ずっとイタリア車に乗っていることは知っていたし、クルマ好きということも十分知っているつもりだったけど、まさか、こんな珍しいクルマを買ってしまうような人だったとは、本当に驚いた。聞くところによると、この方のクルマは日本に5台しかないという(5台もあるのか! とも思ったけど)。きっと縁がなければ自分のものにはならないクルマなんだろうな、そう思うとわたしまで一緒に嬉しくなってしまった。
そして、この書籍があったことをいたく感激してくださったことも素直に嬉しかった。部品番号やなんかも全部載っていますよ。これはすごいな! その声を聞いたとき、この本がはるばるイタリアからここまでやってきた甲斐があったんだな、そうしみじみ思った。
さて、ちなみに『LANCIA APPIA 』を手がけたのは、かの有名なヴィットリオ・ヤーノ。エンツォ・フェラーリによってフィアットからアルファロメオへ引き抜かれ、そこで7年間圧勝の凄さを見せ付けた『P2』や1000MIGLIAの華となった『6C 1750』などを世に送り出し、「天才」と呼ばれていた人物だ。そんな彼が作ったLANCIAの小型車。そこへZAGATOの魔法の手によって、さらに独特の美しさが加わりますます魅力的なクルマとなったのが『LANCIA APPIA ZAGATO』。
一台のクルマを知り、それにまつわるさまざまな物語を知る。そんなふうにしてわたしのイタリア車の世界が徐々に徐々に広がっていく。
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13:22 by ぴろり |
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