イタリア自動車雑貨店
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2006

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2006年12月10日
塗っちゃいました

2日間降り続いた雨がようやく上がった12月9日の土曜日。金曜日が祝日なので3日間の連休という人が多く、クリスマスシーズンのこの時期、連休の買い物客を当て込んで、チェントロのお店はどこも大忙しを予想しています。が、実際は今年の「歳末商戦」はさえないらしいです。来年からの増税、ガンガン進行する物価高を背景に、クリスマスを間近に控えても人々の財布のひもは固く閉まったままだからです。

ドメニコ君の働くカーショップも、せっかくの土曜日だというのに朝から客足はさっぱりです。お客さんがこないと彼はケータイのメールなんかチェックしていて、自ら仕事を見つけて働くなんてことはまずありません。何もしなくていいの?と聞くと、やることがないよ、と肩をすくめます。まあ、僕が見るところでは、掃除だってあるし、不足してる工具の調達に走ったりと、やることはじゅうぶんにあると思うのですが。なにしろ、お客さんのクルマに部品を取り付けたりする際に、いつも3軒となりの電機屋にコンピネーション・レンチ借りに行ってるのですから。

ま、そんなこんなの暇な土曜日、待望のお客さん、ゴルフに乗ったお客さんがやってきました。ブレンボの赤いキャリパーをしばらく見ていたのですが、値段を聞いてあっさりと諦めてしまいました。と、ドメニコ曰く、塗れば安く済むよ。するとそのお客さんは、塗ってくれるならそれでもいいや、とサラっと言いました。ドメニコ君、一瞬詰まりましたが、この暇で暇でしょうがない土曜日、雨も上がったしイイヤと思ったのでしょう、OK、今からやろう、ということになりました。

タイヤを外しました。ブレーキダストで真っ黒のキャリパーが現れます。脱脂剤を使うでもなく、布でゴシゴシ拭きとっていきます。お客さんも見てるのですが、別に何も言いません。そんなんでそのペンキはちゃんと乗るのか、と見ていると、何度も使って先が固まってしまった刷毛、というより筆を取り出して、早速塗り始めました。はじめのうちは塗料をはじいてしまって乗りが悪かったのですが、これでもかの厚塗りでやがて真っ赤になっていきました。キャリパーじゃないところまで塗っていましたが、別にこれにもお客さんは何も言わなかったので、赤いのがホイールの隙間から見えればそれでOKということなのでしょう。ひとつ仕上げるのに40分かかっていました。

万国共通でイタリアの若い人もクルマは大好きです。もちろん自分のクルマを自分だけの仕様にモディファイしたいというのも同じです。がしかし、日本の若者のように自分で自由に使えるほどに所得がありませんから、必然的に「安く上げる」方法が主流になります。たとえば新品のアルミホイールを買える若い人なんてそういません。クルマだって中古の、しかもベーシックグレードを買うわけですから、ホイールを換えたいとなれば、方法はひとつ、鉄のホイールをアルミ風に「塗る」わけです。何十年も前の日本もアルミホイールには手が出ないので溶接ホイール、そしてそれを塗る、なんてことが一般的だったことがありました。幸せな光景です。給料が上がったら赤いキャリパーを買おう、OZのアルミを買おう、なんて手についたペンキを見ながら夢みています。
10:48 by サンサロ


2006年12月06日
14枚のエンブレム

僕らの仕事はイタリアのクルマにまつわる品物を輸入して、それを販売することである。いいものが見つかれば嬉しいし、それをたくさん買っていただければもっと嬉しい。でも、時に、売れていってしまうことにちょっと複雑な気持を覚えることもある。たとえば、今月のNOVITAに登場したLANCIA TEHMA 8.32初期型、そのリアのプレート。

僕はこれをもう何年も探していた。イタリアの自動車部品市に行けば、目は必ずあの印象的なイエローとブルーを追った。しかしある時を境に忽然と姿を消してしまった8.32のリアプレートは、もうほとんど「幻の」という形容詞を付けてもいいほどのレア・アイテムになってしまった。LANCIAの部品リストにはもちろんのこと、当時LANCIAにそれを納めていたところにも、もちろんなかった。

それが今年、2006年11月、いろんな偶然といろんな人の厚意が重なって、とうとう14枚もの8.32のリアプレートを手にすることができた。そうだよ、長い間これに会いたかったんだよ、と思わず声に漏れそうなほどに嬉しかった。手前味噌になるけれど、とうとうやったな、イタリア自動車雑貨店、と僕はこの店をたくさん褒めてやった。そんな思いを込めて、東京に向けて送る。次の更新の華はこれだな。そう考えるだけでワクワクした。

そして更新日のアップ。売れ行きが気になってここトリノから残りの在庫数をチェックしていた。日に日に残数が減っていく。そして今日、これを書く前にチェックしたときにはとうとう残り「1」になっていた。その「1」という数字をじっと見た。1か、と思ってずっと見た。もうあと一つしかないのかぁ……、と思う。長い間探しに探していたものが、それも14枚も手に入れたのに、たったの5日ほどでもうゼロになろうとしている。それは確かに喜ぶべきことなのだけど、娘を嫁がせる父親の気持のようなものなのか、ちょっと、いや、とっても寂しい。

でも、いいことだってあった。あるお客様からのメール。そこには「ずっと探していました。必ずお店に行きますので、取っておいてください」と文字が躍っていた。このメールを繰り返し読んだ。探しあぐねていたものに行き当たったよろこびが行間から溢れていた。14回読む。14回読んで自分の胸にその言葉を焼き付けて、それで良しとしよう、そう思った。イタリア自動車雑貨店という店名を掲げて、好きでこの仕事を始めた僕らにとって、おそらくこれ以上の言葉はないはずなのだ。

最後にひとつ。売ってしまっていてこんなことを言うのもなんだし、そんな資格もないことは重々承知の上だけど、願わくばどの1枚も、ヤフオクなんかで法外な値段を付けられて再登場することのないよう、それを心から祈っている。
12:10 by サンサロ


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