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ブルーノ君、大失敗
午後2時の気温が35度にもならんとしているのに、ドメニコとブルーノのふたりがボディ・サイドいっぱいの炎の模様のステッカー(!)を貼り始めた。ドメニコはいわゆるカーショップの店員、ブルーノはそこの常連客で、イタリアのルノー・クリオ16Vクラブの重鎮である。まあ、重鎮と言っても、その巨大な体躯はまさにそうなのだけど、定職があるのかないのか始終ブラブラしている。
デザインと色彩センスこそが至上命題の、そんな香しきイタリアーニの向こうを張って、ブルーノの哲学は派手ならなんでもいい、という単純至極、極めて明快なそれである。ちょっと共感できる。光りモノをゴテゴテ身にまとわされたクリオは、とぼけたヘッドライトの形状もあいまって、ほんとに困ったなぁ、という顔になってるから笑える。運転席のシートにはディーラーが修理の際に被せるビニールのシートカバーがいつもかかっている。その謎のこだわりも彼のモードである。
で、この巨大なステッカー貼り作業、炎天下での奮闘むなしく大失敗に終わった。こんな大きなステッカーをいきなりベタッと貼り始めたもんだから、そこらじゅうに空気が入ってしまった。そしてその空気を抜こうとヘラを使ってゴシゴシやってるうちに至る所でステッカーが切れてしまったのだ。ちなみに僕は取って置きのステッカー貼りテクニックを知ってるけれど、慎み深さを発揮して黙って見ているだけにした。
写真はいよいよ万策尽きて含み笑いのドメニコと、力なくうなだれる大きな背中のブルーノである。なんかねぇ、こういうところやっぱりイタリア人なんだよなぁ。どうにもならなくなると急に静かになっちゃって、もうショボーンとしちゃうんだから。でこのあと、ドメニコはしずかーにその場を立ち去り、一人残されたブルーノは熱くなったボディの上でベタベタになったステッカーを、大きな指でゴシゴシそぎ落としていた。最悪のウィークエンドだ!なんて雄叫びを上げてたけど、そもそも君は毎日がウィークエンドなんだからね、誰も同情なんかしないんだよ!
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10:10 by サンサロ |
スイカ
スーパーで大きなスイカを買って汗いっぱいで帰ってきたら、アパートの門のところでオカマの売春「婦」のフランカにつかまった。暑すぎるよねぇ、きょうは……、なんて言っちゃって、僕が提げているポリ袋の中身にチラチラ目をやっている。
最初の頃はフランカと話すと妙にドキドキしたのに、最近はまったく大丈夫だ。すごく仲のいい友達になった。雨の日も風の日も、目の前の十字路の角に立ち、時には僕の部屋の軒下の窓のところで鼻歌をうたっているフランカは、イタリア人一般の平均よりずっとずっと勤勉だ。しかも、毎日違う服を着てるんだから、きっと衣装持ちに違いない。今日は文字通り太めの太股も露わな超ミニのスカートを風に翻している。
スイカ買ったの?と頬骨のあたりに男っぽさを残した顔をほころばせて訊いてくる。見りゃわかるだろ、スイカだよ、買ったんだよ、畑で穫ってくるわけないだろ、なんて悪態のひとつもつきたくなるくらいに暑かったし、ポリ袋にはメロンも入っていて体が斜めになるほどに重かったから、僕は気のない返事でやり過ごそうとした。が、フランカは続けた。いくらで買ったの?
えっ? いくらって、そんなのよく覚えてないよ。5ユーロくらいかな。適当な金額を言って門の入り口の方に身体を向ける。じゃあね、フランカ、よい仕事を――。あのね、私は昨日それより2ユーロも安く買ったわよ。追いかけてくる彼女の誇らしげな言葉を背中で聞いた。
部屋に入ってスイカを机の上に置いてみる。レシートを出して金額を確認すると6.54ユーロ(約950円)だった。フランカが払った金額の倍以上だ。ついでに言っておくとメロンは1.23ユーロ(約180円)である。これは十分安いだろう。どうでもいいようなことだけど、同じ瓜科の果物を買っているのは、単純で子供っぽい味覚しか持ち合わせていないからだ。
たぶんこれから僕は日本でスイカを見てもフランカを思い出すだろう。スイカを持てないくらいのヨボヨボのジイさんになっても、背中で聞いたフランカの言葉を思い出すだろう。いつかひとりでぼんやり笑えるような、それでいてどこか寂しさがポロポロこぼれ落ちているような、そんな思い出がきょうまたひとつ加わったトリノの夏である。
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12:17 by サンサロ |
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